なぜ飯舘村と浪江町で高い値の放射能が検出されるのか考えてみた

高い値

福島県飯舘村は、福島第1原発から北西に約40kmの距離(村役場までの距離)に位置する村です。報道などでは「舘」を常用漢字で「飯館村」と記載されることもあります。
この飯舘村の雑草や土壌などから高い濃度の放射性物質が検出されています*1 *2。また、飯舘村に隣接し、より福島第1原発に近い位置にある浪江町でも高い放射線量が測定されています*3

どうしてこの2町村で高い値が測定されるのでしょうか。3月19日の原子力・安全保安院の会見によると、飯舘村放射能について「風向きなどの影響」とみられる、とのことですが、もう少し詳しい説明がほしいところです。天気予報を見ていると風向きは日によってばらばらで、原発から飯舘村の方向へ吹くことが特に多いわけではないですから。

福島第1原発から浪江町を経て飯舘村にいたるまでの地形が、放射性物質の濃度に関係しているだろうと素人なりに考察してまとめてみました。なお、私は放射能や気象に関する専門知識をもっていないため、下記の内容には間違いが含まれている可能性がある点をご了承の上お読みください。お気付きの際には指摘していただければありがたいです。

飯舘村浪江町の位置は、原発から見て北西

飯舘村は前述したように原発から見て北西の方向に位置しています。浪江町は細長い形をしていますが、高い値の放射線量(70時間の累積が3.734ミリシーベルト)が観測された国道399号沿いの地点は原発から見て北西方向にあります。

上図に屋内退避区域を記載してありますが、飯舘村の大部分はその圏外です。
原発からある程度距離が離れているのですが、距離が同等の地域より高い放射能が検出されています。

注意!
上の図は、私が作成したものなので実際の避難指示区域等と若干ずれている可能性があります。避難の際などには絶対に参考にしないでください。正確な区域については、福島県のホームページなどを必ず参照してください。

放射能測定値は原発からの距離と必ずしも相関しない

下記は、福島県内の環境放射能測定値です。

飯舘村の値はやはり他と比較して高めです(一時期と比べれば低くはなりましたが)。
浪江町のデータは福島県のサイトでは見つけられませんでした(私が見落としたのかもしれません)。

田村市の値について注目してください。原発からの距離が比較的近いにも関わらず、もっと西にある郡山市福島市よりも低い値です。さらに、田村市船引→常葉と、原発に近づく方が測定値が低くなっています。いったいなぜなのでしょうか。

この日時のデータだけではなく、測定場所よる上記のような傾向は継続的に見られています。その理由を推測するため、福島県、そして原発周辺の地形に着目してみました。

なお、環境放射能測定値については下に表として貼っておきます(上の図と内容は同じです)。

場所 測定値 福島第1原発からの距離
飯舘村 8.58 40km
田村市船引 0.45 40km
田村市常葉 0.36 35km
南相馬市 0.95 24km
いわき市 0.80 43km
福島市 3.31 61km
郡山市 2.74 58km
玉川村 0.36 58km
白河市 0.84 81km
会津若松市 0.28 97km
南会津町 0.08 115km

平成23年3月29日8時現在の測定値
単位;μGy/h≒μSv/h(マイクログレイ/時間≒マイクロシーベルト/時間)

原発周辺は、太平洋と阿武隈山系に挟まれた平地

原発から飯舘村に至る地形を説明するために、福島県のおおまかな地形をイメージしていただきたかったので、ものすごく簡略化した図を作りました。

下の表は、上図に書いてある番号の説明です。

番号 説明
(1)海 太平洋。
(2)平地 海沿いの平地。
(3)山地 阿武隈山系のうち比較的険しい山が多いところ。
(4)山地・高原 阿武隈山系等のうち比較的なだらかな山々。山間の川沿いに平地が点在。
(5)盆地 中通りの盆地。
(6)湖 猪苗代湖
(7)盆地 会津盆地。
(8)山地・山脈 奥羽山脈越後山脈などの山々。

下記は、キーポイントになる場所の地形の説明です。

福島第1原発のある大熊町双葉町
太平洋と阿武隈山系に挟まれた海沿いの平地、
浪江町
町の東部は海沿いの平地、西部は阿武隈山系の山地です。
飯舘村
山地の中に高原が点在する場所に位置しています。

Google Earthで見る阿武隈山系の「切れ目」

3D地図ソフトのGoogle Earthで地形を確認してみます。なお、起伏が分かりやすいように強調表示する設定にしてあります。

原発から西を望むと山の壁が


上は、福島第1原発から真西を望んだ画像です。海沿いの平地の先に阿武隈山系の山々が途切れなく連なっています。これらの山の先(西)に田村市があります。田村市放射線量が比較的少ないのは、この山の壁に放射性物質の多くが跳ね返されるからでしょうか。

浪江町の海沿いから西を望む


一方こちらは、福島第一原発より7kmほど北に移動した地点(浪江町の東部)から、西を望んだ画像です。やはり阿武隈山系が連なっていますが、手前の山々の間に切れ目のようなものが見えます。

山の切れ目


もう少し寄ってみると山の切れ目が分かりやすくなります。北(画像右)が請戸川、南(画像左)が高瀬川の谷です。原発付近から西に向かった空気そして放射性物質は、山の壁にぶつかり行き場をなくし、数少ない山の切れ目である谷に集中して流れ込む、といった現象を想像してしまいます。

請戸川


水系を表示するとこのようになります。高瀬川を遡ると山地で渓谷が途絶えているようなので追跡は省略します(気になる方はGoogle Earthでご確認ください)。請戸川の方を西北西に遡ってみます。

北西に向かい谷が続く


細長い低地が続きます。このあたりも浪江町です。この先も、ダム湖を経由して北西に向かって渓谷が続きます。

高い放射線量の地域


山間の平らな部分がやや増えてきました。この地点も浪江町です。浪江町内で特に高い放射線量を観測したのは国道399号沿いですが、前方に見える道路がそれです。
このあたりで谷あいの低地はいくつかに枝分かれし、そのうちいくつかは北の飯舘村に、いくつかは西の川俣町に向かいます。

谷あいは飯舘村に至る


進路を北に変え国道399号沿いを進むと、その先は飯舘村です。画像では分かりにくいですが、国道の東側(画面では右側)に主に2つの谷があり飯舘村まで続いています。

このように、太平洋沿いの平地から飯舘村に至るまでは、渓谷が細い回廊のようになっており、何らかの理由で放射性物質がここを通っていくと私は推測しました。なお、Google Earthの画像による説明では国道に沿って途中で北に進路を変えましたが、そのまま西に進むと川俣町に至り、そこもまた原発からの距離を勘案すれば他より高めの放射線が検出されています(測定値等については福島県のホームページなどをご覧ください)。

阿武隈山系の谷が放射性物質の通る回廊になっているのでは

下記は、素人なりの単純な発想での推測ですが、一応この記事の結論めいたものにさせていただきます。繰り返しになりますが科学的根拠はないことをご了承ください。

  • (少なくとも現時点で)放射性物質は、険しい山を越えるほど上空まで飛ぶものは一部で、多くは地上からそれほど離れていない高さを移動するのでは。
  • 東(太平洋の方向)と南北(平地の方向)に向かった放射性物質は、遮るものが少ないため拡散し、ある程度薄まるようだ。
  • 西に向かった放射性物質は、多くが阿武隈山系を越えず、そのぶん山々の切れ目である谷あいに集中して流れ込むと考えらえる。
  • 結果、浪江町の西部の谷沿いの地域、およびその谷の先にある飯舘村は、放射性物質の通り道となりその量が多くなりやすいのでは。
  • 福島市郡山市放射線量が比較的高めなのは、飯舘村や川俣町からきた放射性物質が盆地に沿って流れていくからか。
  • 田村市などでは切れ目のない阿武隈山系に守られているため放射性物質の量は比較的少ない。田村市で、市の中心地(船引)に比べ、より原発に近い常葉地区で放射線量の値が少ないのは、原発から直接受けるものより中通りの盆地等から流れてくる放射性物質のほうが多いからか。

避難区域等は、原発からの距離ではなく実情に応じて検討すべき

素人である私と違って、保安院や学者さんは、科学的な調査をせず想像で発言することはできないはずです。しかし、原発からある程度の距離があっても現に高い濃度の放射性物質が検出されている地域では、その原因はともかくとして、何らかの対応が必要ではないでしょうか。大気中の放射線量は少なくなる傾向にはありますが、原発自体が予断を許さない状況になっており、この事態が長期化したり悪化したり恐れも高まっています。

国は、20kmとか30kmといった原発からの距離にとらわれず、住民が危険にさらされる恐れがある場合には、必要に応じ、町村単位などでの避難指示等の区域拡大を検討すべきではないでしょうか。